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経済政策学科

【経営フィールドワーク】「いりこ」パック開発の真髄/中小企業論[No.02]

  • 2024.03.26
  • 経済政策学科

 鎮西学院大学の「中小企業論」では「いりこ」文化の背景に注目。それを長年にわたって支えるビジネス実践を学んでいます。

 前回の記事では、会社にいりこが届くまでの道のりを紹介しました。今回はいよいよ、会社を訪ねたときの内容を紹介します。

 いりこを全国へ流通させていく営み。そこには「買う」「売る」だけではなく商品を「生み出す」プロセスがありました。

 

社長のお話をうかがう

 

 この日、学生たちは半数ずつに分かれて長崎海産社を見学しました。一つ目のグループが最初に見学したのは製造工場の内部。衛生用品を身に付け、入念に手指を洗ってから入室します。

 すると、そこには外側からは想像もつかなかった大きな空間が広がります。ひときわ目を引くのは長い長いベルトコンベアー。この工程では何重ものチェックをおこない、混ざりものを除去します。これが一定の品質を維持する秘訣です。

 それが運ばれていく先には高いタワーが待ち受けます。これは一定の分量を決めて、ひとつひとつのパックに詰めていく機械。まちまちの量とならないように工夫されています。この工程が終わると、いよいよパッケージ商品ができあがります 3)

 あとはこれを全国の商社や店舗に届けるだけ。・・・と思うかもしれません。もちろん商品の流れはそうなのです。しかし、ビジネス実践の実態について詳しく教わると、ちょっと違った流れも見えてきます。

 

機械と目視の両方で選別をおこなう

そびえたつパック化の機械

 

 このことを学ぶため、工場を終えた一行は次に事務所を訪問しました。ここでは代表取締役の三宅社長および営業担当の中道常務取締役が経営全体のことを教えてくださいました。学生たちは事前に考えておいた質問をぶつけていきます。

 まずお聞きしたのは現在の事業体制について。諫早市で創業して以降、同社は花かつお(かつお節)の製造から商社の仕事まで、幅広い仕事を手掛けてきました。その後、10年ほど前になって大村市に現在の拠点を構えたといいます。

 現在の拠点に移った経緯は何だったのでしょうか。三宅社長にたずねたところ、このときに経営の重心をシフトしたのだということです。新たな工場を構え、パック商品を主力とする製造業者に転換したのです。長い歴史を持つ会社ならではの「戦略」経営が垣間見られるお話しでした。

 そうした商品を開発していく過程もお聞きしました。現在は、非常にたくさんのラインナップを揃えている同社ですが、これらは決して昔からのパッケージではありません。中道常務によると、現代社会のニーズに合うような企画を社員一丸で考え出しているそうです。

近年とくに力を入れているのは、良いものを、値段にこだわらずに手に取ってもらえるような商品づくり。社会が求めるような商品ができれば、多くの人に使ってもらえます。2021年に表彰を受けた「燻し いりこ サクっ!」という商品は、そのひとつだということです。

 興味深いのは、想定するお客さんによってパック商品も変わるというお話しでした。妊婦さんのための商品も開発しています。地域別の商品もあるそうです。長崎のお客さんは海水による煮干し商品を好むため、これが商品の大半を占めます。一方、首都圏のお客さんは「塩無添加」を好むため、その商品も用意しているのだとか。

お客さんの存在を念頭において自分たちの商品づくりに生かしているお話しはとても印象的でした。学生たちが経営学で学んでいる「マーケット・イン」の実践が、日々、おこなわれているのですね。

 

会社の沿革に興味津々

表彰された商品を拝見

 

 西日本に住む人にとっては毎日のように目にする「いりこ」。それが食卓に届くまでは、とてもたくさんの人の手がかかっています。このような積み重ねがあってこそ、長崎名物「いりこ」を世の中に送り出せるのですね。

 そのビジネス実践は、買ってきたものをただ売っていくだけではありませんでした。それを手に取ってほしいお客様を思い描いて、その人たちにちゃんと届くような商品を考え出していく。このような営みこそが、巡り巡って文化を支えていくのです。

 経営フィールドワークというのは、経営の現場に足を運び、自らも一部、見聞したり、体験したりして、経営の実態を学ぶための手法です。頭で考えただけでも、現場を見ただけでも掴めないようなことを、じっくりと理解していく。今回はそうした体験をしてもらいました。

 今回の機会を与えていただいた同社のみなさまに改めて感謝いたします。この経験をもとに、学生たちは将来それぞれの持ち場で自分なりのビジネス実践に励んでくれるでしょう。学生の一部が同社のファンになってくれたり、将来の取引先になってくれたりすれば、さらに嬉しいですね。

 今後の長い人生を通じて、今回の訪問経験を思い起こしてもらえればと思います。人生のそれぞれの時点で、何かしら、成長のきっかけを与えてくれるでしょう。若者たちの活躍もまた楽しみです。

 

同社の商品ラインナップ(一部)

[出典]

1) 長崎漁連ウェブサイト http://www.nsgyoren.jf-net.ne.jp/

2) 長崎海産株式会社 ウェブサイト https://e-niboshi.com/

3) 長崎海産株式会社 YouTube アカウント https://youtube.com/@user-pi2ul8bn3q

 

[答え合わせ]

前回の記事では、最後にクイズがありました。その答えはこちら。

上から順に:アジ、ウルメ、マイワシ、サッパ、キビナゴ、カタクチイワシ、サバ。

ひとくちに「いりこ」と言っても、じつにたくさんの種類があるのですね!